ソウルの日本人

 雨は昼下がりに突然ふりだした。傘のない僕はカフェの軒先へかけこんで空を見上げる。
 目の前をゆく人々は立ち止まり、ちらりと空を見上げるが、かけだしたりはしない。カバンの底から小さな傘を取り出すと、手品師が花を咲かせるようにポンと片手で器用にひろげる。そしてなにごともなかったようにまた歩きはじめる。

 この街に暮らすうちに人々は皆傘を持ち歩くようになる。雨がふると皆それを、合言葉のようにいっせいに ひろげるのだ。
 雨はみるみる強くなり、音を立ててふりはじめた。ソウルには、夏が来ると こんな  “空にあながあいたような”  雨が降る。
 どこからか現れた露天商が嬉々として地下鉄の階段に傘を並べはじめた。
 軒下に立ちつくす外国人の目の前を、色とりどりの傘の群れがゆっくりと通りすぎる。