ソウルの猫

うつぶせに寝るのは、子供のころからのくせだ。
真夜中に目が覚めたのは、枕にしていた腕が痺れたせいかもしれない。
この部屋は昼間まっくらなくせに、夜あかりを消すと枕もとの窓からうっすらと街の灯りが入る。
うつぶせのまま無意識に明かりのほうに視線をやると、窓のすぐ外に猫がいた。
ゴム鞠のような子猫がじっとこちらを見ている。

翌日からその猫が毎日来るようになった。
部屋の窓に姿を見せると、立ち止まり じっと部屋をのぞく。一瞬私と目があうが、フンと目をそらし、悠々と立ち去る。

ソウルの猫の暮らしはずいぶんよくなったようで、猫は人を見ても逃げなくなった。
逃げないのは、人にやさしくされたことのある証拠だ。
脚をひきずる猫や傷を負った猫も見かけなくなった。
かつて うすよごれた、目つきの悪い、ソウルの猫は 悲壮感に満ち満ちていた。 人に蹴飛ばされたことはあっても、やさしくされたことはない。
いまでは野良猫に餌を与える人もいる。
満腹になり、日向であくびをしている猫に警戒感はなく、呼べば近寄ってくることさえある。

ずいぶんましになった猫にくらべると、ソウルの鳩は依然みすぼらしい。やせっぽちで毛並みが悪いし、足の指のないのもいて よたよた歩く。鳩を見るとつい足の指を数えてしまうから鳩を見るのは好きじゃない。

子猫は毎日やってくる。どうやらパトロールのコースにこの部屋が入っているようだ。
昨夜は相棒をつれて現れた、いつものように窓枠の上手からゆっくりと姿を見せ、舞台中央でピタリと立ち止まると、見栄を切るように胸を張り、ちらりと相棒をふりかえる。
それから薄あかりさしこむ、この部屋を得意げにゆっくりと見渡した。子猫は小さくうなづいて「よし」とつぶやいた、ように見えた。