ー助詞の省略じゃない、語順をきかせた話しかたー
あらためて聞いてみると、よくわかる。「なに、たべたいですか」にはもともと助詞はない
話すとき、助詞をつかわないことってよくあるけれど、それがぜんぶ助詞の省略かというと、そんなことはない。
たとえば「なに 食べたい?」。
これがもし助詞の省略であるとしたら、省略されている助詞はなんだろう。「を」か、それとも「が」か。
「なに 食べたい?」は「なに 食べたい?」なのであって、「を」や「が」を省略したわけではない。助詞はいらないからつかわなかっただけなのに、「を」か「が」か、どちらかなんてきかれても困る。
「おすし 食べる?」、「ビール 飲もう!」 「声 かわいいね」、「おすし 大好き」 こういうのも助詞の省略ではない。はじめから助詞をつかっていないのだ。
日本語では、用言の対象である語(目的語)を示すのに、「を」か「が」がつかわれる。このとき用言が動詞である場合は「を」(ビールを飲む)、形容詞である場合は「が」(背が高い)というのがだいたいのルールだ。そして同時に用言とその対象である語のあいだには「おすし>食べる」、「おすし>大好き」という語順がきちんと決まっている。この語順を、助詞のかわりに利用することが、日本語には、ある。
英語や中国語では語順、語が文のどこに置かれるかということが大事だ。助詞をつかわないと、日本語でも、自然にこの「語順」というものが効いてくる。助詞でなく語順を効かせた、リズム感あふれる、この、いきいきとした表現が、会話で多用されるのは、当たり前のことだろう。
- は
- が / を
- (たべ)に
助詞をはずして、語順を利用できるのは、「は」「が / を」と「(食べ)に行く」「(学校)へ/に行く」だけである。そもそもこれらの助詞は大昔の日本語ではつかわれていなかった。使わなくても困らなかったのだ。
現代の日本語でも、 「おれ、会社、やめる」 「うちの会社、仕事、きつい」 「メシ、食い、行くか」 という具合に話し言葉で助詞をつかわないことは多い。
一方で、 何時に、どこで、誰と、何人で どこから、どこまで なんていう助詞は、話し言葉であっても、はずすことができない。これは語順がそれほどかっちりと決まっていないからだ。語順が決まっていないから、位置で役割を規定することができない。(これら周辺情報を示すには、英語でも語順だけでは足りず、助詞の力を借りている)
逆に日本語の大基本文型である「Aは>Bが/を>C」という語順はとても強く、助詞がなくても語順…語の位置でその役割がわかる。だから「は」と「を/が」は はずすことができるのだ。「食べに」の「に」がはずせるのも、動詞の直前という位置をしっかりと与えられているからだろう。
歌詞には語順を効かせた表現が多い